2012年7月14日土曜日

句楽詩区 7月号
     

ペン画:加藤 閑
                  


加藤 閑  ・・・山揺れる
さとう三千魚 ・・「はなとゆめ」03
古川ぼたる ・・・7月の蕾
           茫茫



加藤閑  山揺れる

山揺れて夏を怖るゝ齢かな

ゆううつに午睡を翔ける白き鷺

桃の傷皮に露はな羞恥のかたち

歳月が町揺らす音ソーダ水

大垣に至る間際の暑さかな

短夜や氷砂糖の割れる音

信仰はなく炎天のオートバイ

梅雨晴れや家を忘れし母の魂

コンビーフ夏果つるとは思はざり

夏草を見る網膜のあたらしさ


さとう三千魚 「はなとゆめ」03  
背中に咲く花

今朝、
モコが吠えていた
モコの吠える声が聞こえていた

ウォン
ウォン
ウォンウォーーン

モコの吠える声が聞こえていた
モコの吠える声が聞こえていた

ぼくは、目覚めた
ぼくは、目覚めた

ハイビスカスの花が揺れていた
淡いオレンジ色のハイビスカスの花が揺れていた

きみは、いない
きみは、もういない

今朝
モコが吠えて
ぼくは目覚めていた
庭の片隅にハイビスカスが揺れていた

モコが吠えていた
モコが吠えていた

風が吹いていた
風が吹いていた

きみの背中にハイビスカスの花が揺れていた
きみの背中にハイビスカスの花が揺れていた

きみは、いない
きみは、もういない

つまりこの世は神が創ったのではなく
つまりこの世は神が創ったのではなく

モコが吠えて
ぼくは目覚め

ハイビスカスが揺れていた

淡いオレンジ色のハイビスカスの花が揺れていた
淡いオレンジ色のハイビスカスの花が揺れていた



古川ぼたる 7月の蕾

覆っていた夜が開かれ
ゆっくりと白みかけた空から
すこしずつ入って来る光りに
すこしずつ温まる滴のついた蕾
温まる滴が開かれ広がる
濡れている昼顔の蕾
濡れた蕾の内側も外側もその隙間も
温まる光りの滴
温まる昼顔の蕾
薄紅色にほどけ始める昼顔の蕾の火照り

土のなかではわずかな隙間から湿りを入れて
根の先端から沁みわたる水分が
葉と葉の隅々まで伝わり
それぞれの葉が呼吸を繰り返している葉むらでは
それぞれの息に重なるそれぞれの息が混ざり合い
混ざり溶けあう合う息の湿りが
火照る蕾をさっきより今より火照らせる

温まった蕾に包まれていた花びらが
内側から膨らみ
蕾の縁を押し開いて光りを入れる
めくれてくる花びらの縁と蕾の縁に帯びる熱に
花びらが息をするたび、光りが濃くなり
葉むらが息をするたび、根は水分を汲み上げ

縺れるように潜んでいた花びらの縁が
濡れながら光りを吸いに口を開けると
濡れて光る縁に吸い込まれ
光りを吸いに開けた口に吸い寄せられて
濡れた光りは五弁に裂けようとして裂けない

裂けない花びらのやわらかな縁取りの昼顔が
さっきより今より、より今より
生い茂る雑草に混じり合い
蔓を伸ばし


茫茫

棘を持つことを憂いぬ夏薊

落日の紫雲の蕾夏薊

パンのみに在らずぞ緋鯉気をつけて

見るまでの憂いはどこにかきつばた

床の間に百合の匂える横座り

片耳に髪かき上げし梅雨曇り

雲海の道茫茫と父母の声

ろうそくのてやくちびるやめのほむら

終電に駆け込む葱の青きかな

雲のみは飽かぬ子を連れ桜桃忌

首筋に蚊だよと触れる黒子かな

尻洗う心地良き時チャイム鳴る

鶺鴒やゴメンゴメンと飛ぶ仕事

そうだよね海辺の駅のカンナだね

背と膝に嬰児の老女接見す

歯茎もて舌もて桃の芯までも

短夜を残す齢の尿かな

変わり果てマルエン選集紙魚を飼う

道端をはにかむ昼咲き月見草

紫陽花の空決壊を兆すかな

2012年6月15日金曜日

句楽詩区 6月号
 
さとう三千魚・・・はなとゆめ 02 野外
加藤 閑  ・・・鴇巣立つ
古川ぼたる ・・・6月の兆し
          密告

「はなとゆめ」  02  さとう三千魚
野外
カタバミの花、咲いた
カタバミの花、咲いたの
きみの居ない庭のアマリリスの鉢から
咲いた
咲いたの
カタバミの花、咲いた
咲いたの
細い茎の先の
先に、むらさき色の花ひらいて
むらさき色の小さな花ひらいて
ひとつふたつみっつ
ひらいて
居ないきみの庭のアマリリスの鉢から
きみの居ない庭の隅の片隅のアマリリスの鉢から
モコが庭の隅で吠えてる
モコが庭の片隅で吠えてる
ウォン
ウォン
ウォンウォーーン  モコが吠えてる
居ないきみの庭の隅の片隅  モコが吠えてる
モコがウォンウォーーン  吠えてる
居ないの
きみはもう居ないの
きみはもう遠くへ行ってしまったの
カタバミの花、咲いたの
カタバミの花、咲いたの
カタバミの花、咲いたの
カタバミの花、咲いたの
むらさき色の小さな花ひらいて
消えていくものは消えていったの
細い茎の先の先のむらさき色の花ひらいて
細い茎の先の先に小さなむらさき色の花ひらいて
より先なるものと
より先なるものとなってきみは消えていったの
消えていくきみが、いたの
消えていくきみが、いたの
いくつも、消えていく、きみが、いた
いくつもいくつも、消えていく、きみが、いたの
消えていくきみを、しずかに、ささえていた
消えていくきみを、しずかに、ささえていたかったの
消えていくものは消えていったの
消えていくものは野外に消えていったの

鴇巣立つ 加藤閑

老いし吾を旅人にする青田風
ぼうふらの水に山々映りたり
少年の犬歯を伸ばす五月闇
図書館の黴浮く栞書簡集
剃刀に繁れる草木五月ゆく
あの世でもわが家と同じ豆御飯
にんげんを越境する日の燕かな
命日に五彩の夕立屋根洗ふ
黄泉の戸はこの裏側と鴇巣立つ
青簾ひなたをあゆむ仏かな



古川ぼたる  6月の兆し

冬の終わりの
強風に洗われて
空は真っ青な午後
隣で畑を作っていたお婆さんは
遺体を焼かれた
焼却炉から出てきた時はまだ熱かったが
もう元には戻らない
焼け残った骨を拾われたが
取り返しのつかないものに変わり果てていた

84年の季節を生きて
84年の時間を受け止めてきた
お婆さんの肉体は
川が決壊するように
時間が流れ出し
とうとう押し止めることができずに
もう一度話し出す間もなく火をつけられ
もう一度動き出す間もなく燃やされた

水仙が花を終え
畑の花も変わり
一人暮らしだったお婆さんが
腰を折り曲げて植えたジャガイモは今
葉影に眠っている蝶が
人知れず微笑むように
花を咲かせている
畑の隅では紫陽花の蕾がほどけて
いくつもの花々が膨らむ

やがて口という口が濡れる雨の季節に
雨の合間の晴れた日にはジャガイモを掘り
受け止めてきた時間を掘り出して
蒸かして食べた
やわらかな記憶は
うまいね
目を細めて
うまいねうまいね

6月の空に間もなく梅雨が来て
抱えきれない空が決壊すると
生殖に忙しい地上に
大量に降り注ぐ
空の兆を映して
地上は色を変え
溢れ出した時間でいっぱいになる


密告

勢いを籠めるくさめや散る桜
浮鳥の夢の褥や花筏
メドゥサの潜める夜の雪柳
法悦の花弁の上の青ガエル
田に水やぬるりと我を迎えたり
野ネズミの故郷青田に奪われぬ
麦秋やわれ密告を思い立つ
静寂を背に新緑の伝道師
牛ガエル疑う余地の無かりけり
五月尽電柱囲むランドセル
会釈してすれ違いたり夏ミカン
ドクダミや白き微笑を返しけり
入梅雨や吾も去年の花の種
置き去りのビニール傘や葛の蔓
厚き手の中に枇杷の実熟るる哉
梅雨寒や鍋釜薬缶妻恋し
目覚めても爪切る音の続きたり
暗向の血は滔滔とヤブカラシ
ノロイアルフエキリュウコウキューリキル
短夜や単身赴任の抱き枕

2012年5月15日火曜日

句楽詩区 5月号

加藤 閑・・・「春惜しむ」
さとう三千魚・・・「はなとゆめ01
古川ぼたる・・・「五月」「華甲なり」



春惜しむ         加藤 閑


雪渓に影似せて行くテロリスト
春の波砂の城まで届かざり
おほかたは紀州の人ぞ花見舟
屋根屋根の瓦かがやく猫の恋
死者未だ新樹の影に佇めり
表札の隅に錆浮く春の暮
歯に残るセロリの苦さ夏来たる
お日様を盥に混ぜて春惜しむ
陽炎を踏む靴紐の長さかな
けふ一日わが心臓であるトマト



「はなとゆめ」  01   さとう三千魚


うその暮らし


きみはねむってるの
きみはいきをしているの
きみはいきているの

きみは
どこいったの

きみのやわらかい笑顔はどこにいったの
きみのあのかなしい瞳はどこにいったの
きみのあのおかしいあくびはどこにいったの

ちかくでみているの
ちかくからみているの

きみはあらゆる動性をゆっくりと停滞させて
ゆっくりとゆっくりと停滞させて
そしていなくなった

山百合の匂いを残してきみはいなくなった

山の斜面には白い道があった
霧がながれてきて
このままだと死ぬんだとおもった
でももういいんだともおもった

きみはだからもういい
きみはだからもういい

きみはあらゆる動性をゆっくりと停滞させてそしていなくなった
きみはあらゆる動性をゆっくりと停滞させてそしていなくなった

きみはねむっているの
きみはいきをしているの
きみはいきているの

きみは
どこいったの

きみは真顔でじっとこちらをみていた
きみは草木の精霊となって透明なからだでベッドに横たわり
それからきみはゆっくりと浮遊して真顔でじっとこちらをみていた




五月           古川ぼたる

満開に咲いていた桜が散り
満開に咲いていた菜の花が散り始め
いま満開に咲いている花ミズキ

散っていった桜
桜よりも前に散っていったサザンカ
少し遅れて散っていった白木蓮

胡桃の花が咲き
あやめが花を咲かせ
散っていく五月

いろんな草や木が
一斉に芽吹いて
耀く五月

美しい五月
いつもこんなにも美しかった五月
けれど美しいと言えなかった五月

五月がこんなにきれいなのは
いつもこんなにきれいだった五月を
ただきれいと言えばよかっただけなのに


華甲なり          古川ぼたる

(華の字を分解すると六つの十と一とになる。甲は甲子の意味)数え年61歳。
                           ・・・・広辞苑より

冬薔薇ほの紅に火照りたり
唐突に悔いよみがえる霜柱
追い越して行くマフラーの熱さかな
抱けそうな距離に佐保姫野の炎
メロス待つセリヌンティウス春隣り
早春の走れメロスを送ります
カーブ切るときめき春の手中なり
鬼頭良く洗いて熱き珈琲入れん
あつき口うすき口へと水温む
少年の茎甘かりし麦の笛
少年の夢精のように華甲なり
春雨や猫は腋毛を舐めている
宿世への小さき扉紋白蝶
やわらかきなのあらがいのなのなかへ
春愁や上り電車の通過です
揚げ雲雀月末多忙となりにけり
お花見をしましょ銀河に腰掛けて
大風が春列島を独裁す
ブロンズの乳首なき乳冴え返る
ふらここに幼き父母を乗せにけり
叱られし烏のおわす選外句
木蓮の含羞白き中也かな
一卵を分けし朝飯霞たり
信仰がほしい朝なり牛蛙
行春やほろ酔いの宵神楽坂
幾何学が好きで生るるや蚊喰鳥
ほどけそむアヤメの綾の妖しかり

2012年4月10日火曜日

2012年4月9日月曜日