春の雨 古川ぼたる
詩を読むと
書かれた詩の
意味することはわからないけれども
作者の口調が
浸み込んできて
同調し
目の前の風景を
言葉にしている
俳句を読めば
読んだ俳句の
短歌を読めば
読んだ短歌の
意味はわからない
理解できない
難解、深淵な
詩、高級典雅な哲学が何処かに隠されている
俳句や短歌やさっき読んだ詩の
作者が誰だってかまわない
さっき読んだ口調に乗って
あたりのものが
すぐに浸み込んでくる
食器を洗う時のスポンジ
体を洗う時のタオル
口調が浸み込んできて
同調してしまう
弦の無いギター
膜の無い太鼓
ひと月前までは
北風に吹かれて
狂ったように身を揺さぶっていた
枯れススキも
今朝の春の雨を
浸み込ませている
霧のような細かな雨が
降り注ぎ
桜の蕾が膨らんできている
あと一週間もすれば
この雨を浸み込ませた蕾も
姿を変える
今はまだたくさんの蕾
たくさんの蕾よりも
もっとたくさんの雨の滴が
桜の木の梢にも
水仙の葉っぱにも
銀色の滴が
耀いている
無数の半球体
自足し
じっとしているように見えるけど
本当は
ほんの小さな衝撃に
壊れてしまう
無数
あたりの景色を
何でも受け入れ
映している
無数
無数の
水で出来たレンズ
近づいてみると
わが鼻息にも
走り去る車の
振動にも
何にでも同調し
同調し過ぎて
身を震わせ
こらえ切れずに
桜の梢から落ち
水仙の葉っぱから落ち
物干し竿から落ち
落ちては
還る
乾ききっていた土に
春の滴が
浸み込む
元の土に還る
還ってきた
水分を汲み上げて
柔らかな羽毛のような
猫柳の花が
咲いている
絶え間なく
今朝の雨が降り注ぎ
柔らかな猫柳の花に
浸み込んでいく
降り注ぐものを
たちまち浸み込ませて
調べを同じくしている
呼吸を同じくしている
ぼたるさん、コメントが遅くなってしまいました。
返信削除詩を読むと意味や作者は不明でも作者の口調に同調して親和していく、ということから語り始められた言葉は、水の親和性にいたり、最後に猫柳という植物のやわらかい花に行き着きます。
やわらかい花への親和はやがて母の死をふくむ私たちの死に言葉を向かわせるでしょう。